2009-07

見る、眼の誕生はわたしたちをどう変えたか

サイモン・イングス著、吉田敏子訳(2009)
『見る、眼の誕生はわたしたちをどう変えたか』
 早川書房

 わたしたち人は、色であれ、形であれ、他人も自分と同じように知覚していると思っている。しかし、本書によれば、実際は、眼の知覚は個人によって非常にばらつきがあるそうだ。

 たとえば色を感じる色覚の場合、青を感じる錐体細胞、赤を感じる錐体細胞、それに緑を感じる錐体細胞の三つの錐体細胞がそれぞれ感知する光の刺激の程度によって、わたしたちは多くの色を知覚するのだが、この三つの錐体細胞のうちのひとつが欠けたり、その一つや複数に機能不全があり光に対する反応が鈍かったり、予想外の波長に反応する色素があったりする結果、さまざまな色覚異常が生じ、完璧に正常な色覚を持っていることのほうが珍しいそうだ。実際、まったく正常な色覚を持っている人はごく少ないそうだ。
 
 研究が進んだ結果、なぜ色覚異常がこれほど多いかが明らかになった。赤と緑の受容体をコードする遺伝子はほとんど同じで(DNAの塩基配列の違いはわずか2パーセント*)、しかもX染色体のうえで隣り合っていたのだ。女性は母方由来のX染色体と父方由来のX染色体を各1本ずつ合計2本持っているが、卵子が作られる過程で母方由来と父方由来のX染色体がランダムに場所を変えて新しいX染色体が出来る。このとき、「赤の色素」と「緑の色素」の遺伝子が配列から脱落したり、重複したりしやすいのだ。
 *きのこの場合、塩基配列が2%違えば種が違うと主張する方がいるかしら?

 この研究を行ったジョンズ・ホプキンス大学医学部のネイサンス教授は正常な色覚を持っていたが、自分のX染色体にも混乱があるのを発見してびっくりしたそうだ。X染色体上には普通、赤と緑の受容体をコードする遺伝子が一つずつあるのだが、ネイサンス教授には三つあったのだ。しかし、このようなことはごく普通で、赤と緑の受容体をコードする遺伝子が九つ集まっていることもよくあるそうだ。このために一見正常な色覚の持ち主でも、緑から赤にかけての中間の波長や長い波長の光の知覚は個人によって非常にばらつきがあると思われる。

 さらに人は普通、青、緑、赤の3色型の色覚を持つが、1色多い4色型の色覚を持つ女性も見つかっている。その女性の場合、極めて微妙な色合いを見分けることが出来、虹を見ると7色ではなく、10種類の違った色が見えるそうだ。

 本書を読んで、色覚は個人によってさまざまであり、普遍性がないものだと認識させられた。きのこの分類形質として色が重要視されている。しかし、色覚は人によって異なり普遍性がなく分類形質として使うにはあまり適当ではなさそうだ。あえて色を分類形質として使う場合、そのことをよく認識して使うことが大切だ。

 本書は色覚だけではなく、わたしたちが知らなかった眼に関する多くの情報を教えてくれる。ミドリムシの単純な眼点から魚類の複雑な眼球にまで進化するのにどのくらいかかるだろうか?答えはわずか40万世代、年に一度繁殖する魚ならわずか50万年足らずだそうだ。

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